単騎独考

切れるカミソリではなく、切れなくてもナタでありたい。

海男(3)

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「それで諦めたらあかんのや」立三は言った。

「そこでもう一粘りする、そこでもう一回、頑張るんや」自分を励ますようにもう一度言った。

「そうか、やっていたか」

「はい」イワシ男は立三の感情を逆なでしないように頑張って極めて淡々と応じた。

「あのな、アイデアというの出す秘訣はな、発想するプロセスと選ぶプロセスを絶対に一緒にしないことなんや、そして出来るだけ沢山アイデアを出す、どんなくだらんアイデアでも構わない、とにかく出すんや」

「はい」

「出して、選んで、あかんかったらまた出す、まあ、出してみてあかんかったから、しゃあないな、ここでメゲズ、傷つかず、さっさと次にいく、それがプロなんや」

「はい」

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さかはらあつし 

「しびれるぜ」

映画関連の雑誌連載の企画があります。

 

どんなタイトルがいいのかなと考えていました。

 

「しびれるぜ」

 

がいいなと思いました。

 

これ以上のタイトルはないなと思います。

 

しびれている時は、それしか思いつかないからです。

 

そこにしか真実はありません。

アメリカンフットボール選手の敗者復活戦(2)

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フットボール部の奴は大学卒業後は余生や。キラキラと輝く青春時代を遠くに見ながら、『俺はホンマは』と思いながら、大企業の組織の論理に飲み込まれていく、そんなもんやろ」

「私からは言いにくいですが…」

浦崎は言った。

「でもな、それでええんかもしれん」

「は?」

「キラキラした瞬間が人生に一回でもある言うんは素晴らしいことや、そんなもん持てんと生きているのがこの世の中、大多数の人やないか?」

「そうですね、言われて見れば…」

「ところで、君のことは大体調べて来たで」

「え?」

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さかはらあつし 

 

アメリカンフットボール選手の敗者復活戦(1)

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ある日、突然、イワシ男は「ちょっと来い」と立三に大阪梅田に連れて行かれた。

阪急電車を降り、紀伊国屋書店を越して、少し歩いたあたりにある喫茶店での打ち合わせだった。

そこにいたのは、元スポーツマンらしく刈り上げた爽やかな笑顔の中年男性だった。

「浦崎です」とその男は挨拶した。

少し緊張しているようにイワシ男には見えた。

「君は日本一になったことないんちゃうか?』と立三は担当直入に切り出した。

「日本一」浦崎はそう呟いたあと、一瞬考え、「は、はい」と答えた。

「あのな、あの大学、勉強は良くできる、それでフットボールやったら就職最強、引く手数多なんや、何しろかつては日本一位になった文武両道のフットボール部やからな」

「はい」

「でもな、あそこのフットボール部出て、社会で大きな仕事したことある奴見たことないんや」と立三は言い放った。

大学の後輩ということで身内意識があったから歯に衣着せぬ言い方をしたのか、親身になっているからこそなのか、立三は珍しく今日は少し厳しい気がした。

その物言いにムッとすることもなく浦崎は「どうしてでしょうか?」と尋ねた。

「みんな大学でフットボールを真面目にやるのはええけど、人生で何をやりたいのか、やるべきなのかをじっくりと考えるチャンスを全部フットボールに持って行かれてしまってるんやないかと思う、せやからフットボールが終わったあと人生をどう生きたらいいのか、わからん奴ばっかりなんやないかなと思う、なんぼ逸材でも志がなければどしようもないということや」

「はい」

 

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メディカル10( 2 )

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「あのな、見てみこの12という数字、金色や、眩しいな」

「はあ」

「最初は10の配合成分で売れまくった薬が、他社の同じ成分の目薬と価格競争を繰り広げ、値段が下がる。そしたら二つ配合成分増やして、12にして戦い始める。12の成分になってもまた他社が同じようなのを出して来る」

「はい」

「これが飽きることなく永遠に繰り返し続けられるのが資本主義の風景や」

「はい」

「そして、メディカル10は生産されなくなるんや、それは『メディカル10』の時代が終わったということや、それは俺の青春の終わりなんや」

「なるほど、ところで...」

「青春って何なんですか?立三さん」

立三はイワシ男をじっと見つめた。

「お前、ええこと聞くやないか」

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メディカル10 (1)

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立三はじっと空になった目薬を眺めていた。

目薬には「メディカル10」と書かれていた。

すぐ脇には封の切られていない「メディカル12」という目薬の箱があった。

「これで俺の青春は終わった」

立三は悲しそうにボソリと言った。

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長岡京プロジェクト (3)

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立三は万年筆で手紙を書いた。

たった一枚、季節の挨拶もない、簡にして要を得るとはこう言うことかとイワシ男は思った。

「経営者は忙しいやろ、季節の挨拶なんかしている暇ないんや、要件だけドンと書いたらええんや、忙しい経営者は日に三回は従業員に『結論を言え』と怒鳴っているはずや」

「なるほど」

 

イワシ男はありがちな経営者がそう怒鳴っている姿を想像すると可笑しかった。

 

「でも、何を書けばいいんですか?」

「アホ、お前、そんなんもわからんのか」

「はい」

「それが社会に必要で、その人にメリットがあるから、会って説明したい、それだけ書いたらええんや」

「それだけですか?」

「そう、それだけや」

 

イワシ男は立三がしたためた手紙を持って郵便局に向かった。

 

暑い夏の日のことだった。

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